2005年 05月 06日
金比羅様詐欺事件 |
それはもう4〜5年前の話です。
ちょっと苦手なデザイナー(だってすぐ怒るんだもん。一応オレ、クライアントなんだけどな)との打ち合わせを終え、社に戻るときのことでした。
やれやれ、なんとか終わったわいと、だらーっとした、だらしない安堵の顔になっていたと思います。「敵」は、そういう思いっきり無防備な「獲物」を逃すはずはないのでした。
会社のすぐ近くにある「金比羅神社」を通り過ぎようとしたあたりでした。1台の車がスーッと、私の横に止まり、助手席のお兄さんが私に声をかけてきたのでした。
「あの、私たち、この近くでブランド物のバーゲンをやっていたんですけど、ひとつだけ売れ残っちゃったんですよ。これ、会社に持って帰ると上司に怒られちゃうんで、これ、あなたにあげます」
お兄さんはそう言いながら、ケースに入った金ピカのペアウォッチを私に差し出しました。
「これ、イタリアのブランド物です。普通に買ったら10万円はするんですよ」とお兄さんはおっしゃいます。
突然の申し出に戸惑っている私に、さらにお兄さんは続けました。
「ホントは私たちが、質屋にでも行って換金してしまえばいいんですけど、もう会社に戻らなくてはならないんです。とにかく時間がなくて。あっ、これ質屋に持っていっても、5万くらいで引き取ってくれますよ」
高価な感じのする、金色に輝く時計でした。ちょっと成金っぽい感じもしましたが、誰かにあげてもよし、お兄さんの言葉通り質屋に持っていってもよし、貰ってそんはありません。
でも、身も知らずの人に、そんな高価なものをいただいてもいいのでしょうか。なんでも「ごっつぁんです」と当たり前のようにいただける神経を持ち合わせていない私は、
「ホントにいいんですかあ。いやあ、困っちゃったなあ」と、心の中では貰う気満々でしたが、一応は遠慮するそぶりをしてみたのでした。
「ホントにいいですよ。ぜひ貰ってください。あっ、でもそんなに申し訳ないと思うんなら、私たちがこれから会社に帰って、お疲れさまということで、ちょっとだけビールかなにか飲みたいんですよ。そのめんどうだけ、見てもらえますか」とお兄さんはおっしゃいます。
ああ、そういうことね。やっぱりタダってわけじゃないんだ。そう思いましたが、買えば10万もする時計ですから、お兄さんたちがビールを飲むくらいの、少しぐらいの出費をしても全然モトは取れているはずです。
私は財布の中から、ありったけの千円札4枚出し、「これくらいでいいですか」と彼に差し出したのですが、彼はなぜかいい顔をしません。
「私たち、すっかり疲れちゃって、そこでゆっくりと、ご飯も食べたいんですよ。どうかもう少し、なんとかなりませんか」
ああそう、もうちょっと贅沢なところで飲み食いしたいのかな、まあ、10万円のものをいただくわけだからいいかと、今度は1万円札を彼に渡しました。しかし、まだ彼はいい顔をしてくれません。
「もうちょっとなんとかなりませんか」
今度は私のほうが大きく出る番です。「ああ、それならいいです。時計もいりませんから。それに私、そんなにお金持っていませんから」と、彼の手にあった1万円札を引っ張りました。私、ちょっと「駆け引き」をした気になっていました。
しかし、彼は1万円札を決して離さず、ちょっとキレ気味に「ああ、じゃあいいですよ。私たち、これでビール飲ませていただきますよ。思うような店には行けないですけど」と言いながら、私に時計を差し出して、お兄さんは去っていきました。
なんだよ、お金貰っておいてその言い方は、と思いましたが、得をしたのは私のほうです。彼との駆け引きに勝利した気分になって、うきうきしながら会社に戻りました。
会社でこっそり時計のケースをあけてみました。
キラキラ輝いたペアウォッチがありました。うひょひょひょひょ。
しかし。
ちょっと腕にはめてみようと手に取ったところ、ブランド物のわりには軽い、というよりは安っぽい、すぐ錆びてしまいそうな材質で作られていることに気がつきました。
聞いたことのない名前が書いてありました。どこにもメイド・イン・イタリーとは書いてありませんでした。
女性ものの時計は、すでに動いていませんでした。
縁日あたりで売っている、まがい物の時計であると、そのとき初めて気がついたのでした......。
すっかり騙されてしまっていたのでした。嗚呼。
本当はこんなみっともない話、披露するのはどうかなあ、と思っていたんですけど、週刊文春を読んでいたら、作家の角田光代さんが、私と全く同じ経験をしているのを知って(彼女の場合は着物、でした)、勇気を振り絞って告白させていただきました。
ただより高いものはない、ってかあ。
ちょっと苦手なデザイナー(だってすぐ怒るんだもん。一応オレ、クライアントなんだけどな)との打ち合わせを終え、社に戻るときのことでした。
やれやれ、なんとか終わったわいと、だらーっとした、だらしない安堵の顔になっていたと思います。「敵」は、そういう思いっきり無防備な「獲物」を逃すはずはないのでした。
会社のすぐ近くにある「金比羅神社」を通り過ぎようとしたあたりでした。1台の車がスーッと、私の横に止まり、助手席のお兄さんが私に声をかけてきたのでした。
「あの、私たち、この近くでブランド物のバーゲンをやっていたんですけど、ひとつだけ売れ残っちゃったんですよ。これ、会社に持って帰ると上司に怒られちゃうんで、これ、あなたにあげます」
お兄さんはそう言いながら、ケースに入った金ピカのペアウォッチを私に差し出しました。
「これ、イタリアのブランド物です。普通に買ったら10万円はするんですよ」とお兄さんはおっしゃいます。
突然の申し出に戸惑っている私に、さらにお兄さんは続けました。
「ホントは私たちが、質屋にでも行って換金してしまえばいいんですけど、もう会社に戻らなくてはならないんです。とにかく時間がなくて。あっ、これ質屋に持っていっても、5万くらいで引き取ってくれますよ」
高価な感じのする、金色に輝く時計でした。ちょっと成金っぽい感じもしましたが、誰かにあげてもよし、お兄さんの言葉通り質屋に持っていってもよし、貰ってそんはありません。
でも、身も知らずの人に、そんな高価なものをいただいてもいいのでしょうか。なんでも「ごっつぁんです」と当たり前のようにいただける神経を持ち合わせていない私は、
「ホントにいいんですかあ。いやあ、困っちゃったなあ」と、心の中では貰う気満々でしたが、一応は遠慮するそぶりをしてみたのでした。
「ホントにいいですよ。ぜひ貰ってください。あっ、でもそんなに申し訳ないと思うんなら、私たちがこれから会社に帰って、お疲れさまということで、ちょっとだけビールかなにか飲みたいんですよ。そのめんどうだけ、見てもらえますか」とお兄さんはおっしゃいます。
ああ、そういうことね。やっぱりタダってわけじゃないんだ。そう思いましたが、買えば10万もする時計ですから、お兄さんたちがビールを飲むくらいの、少しぐらいの出費をしても全然モトは取れているはずです。
私は財布の中から、ありったけの千円札4枚出し、「これくらいでいいですか」と彼に差し出したのですが、彼はなぜかいい顔をしません。
「私たち、すっかり疲れちゃって、そこでゆっくりと、ご飯も食べたいんですよ。どうかもう少し、なんとかなりませんか」
ああそう、もうちょっと贅沢なところで飲み食いしたいのかな、まあ、10万円のものをいただくわけだからいいかと、今度は1万円札を彼に渡しました。しかし、まだ彼はいい顔をしてくれません。
「もうちょっとなんとかなりませんか」
今度は私のほうが大きく出る番です。「ああ、それならいいです。時計もいりませんから。それに私、そんなにお金持っていませんから」と、彼の手にあった1万円札を引っ張りました。私、ちょっと「駆け引き」をした気になっていました。
しかし、彼は1万円札を決して離さず、ちょっとキレ気味に「ああ、じゃあいいですよ。私たち、これでビール飲ませていただきますよ。思うような店には行けないですけど」と言いながら、私に時計を差し出して、お兄さんは去っていきました。
なんだよ、お金貰っておいてその言い方は、と思いましたが、得をしたのは私のほうです。彼との駆け引きに勝利した気分になって、うきうきしながら会社に戻りました。
会社でこっそり時計のケースをあけてみました。
キラキラ輝いたペアウォッチがありました。うひょひょひょひょ。
しかし。
ちょっと腕にはめてみようと手に取ったところ、ブランド物のわりには軽い、というよりは安っぽい、すぐ錆びてしまいそうな材質で作られていることに気がつきました。
聞いたことのない名前が書いてありました。どこにもメイド・イン・イタリーとは書いてありませんでした。
女性ものの時計は、すでに動いていませんでした。
縁日あたりで売っている、まがい物の時計であると、そのとき初めて気がついたのでした......。
すっかり騙されてしまっていたのでした。嗚呼。
本当はこんなみっともない話、披露するのはどうかなあ、と思っていたんですけど、週刊文春を読んでいたら、作家の角田光代さんが、私と全く同じ経験をしているのを知って(彼女の場合は着物、でした)、勇気を振り絞って告白させていただきました。
ただより高いものはない、ってかあ。
by yochy.1962
| 2005-05-06 02:04
| 生活全般