2005年 05月 01日
私が出会ったハンサムレディー2(その3) |
「えっ、ここで寝るの?」
通された部屋は、20畳ほどもある、切子さんの「仕事場」でした。
切子さんの家は、その昔下宿屋さんをしていたらしく、広さだけはとても贅沢なのですが、その広いスペースに、アイロンやらコテやらいろんな生地やら本やらが散乱して、まったく足の踏み場がありません。なにも知らない人がこの部屋に入ったら、きっと泥棒がいろいろと物色した後だと思うような、とにかくすごい部屋でした。
「このへんの荷物どけて、布団敷いてね。あっ、あたしはもちろん違う部屋で寝るから。じゃ、おやすみ」
布団は一組しかありませんでした。もっとも、3人分の布団があったとしても、敷くスペースはありませんでしたから、いっしょでした。
無理矢理泊まらせてもらったので、文句も言うことはできないのですが、我々3人はあまりもの衝撃で、すっかり酔いも醒めてしまいました。
「切子さん、女にしておくのもったいないよな」
電気を消して、窮屈きわまりない布団に入ったあと、ひとりがそうつぶやきました。
女にしておくのがもったいないかどうかは別として、気取りとかおすましとか、一般的な女性が持ってあるであろうものとは真逆のふるまいがとても新鮮で、魅力的だと思わせる、いままで知らなかったタイプの女性だなあと思いながら、私は眠りにつきました。
次の朝、夕べの勢いとはうらはらに、すっかり恐縮してしまった我々に、切子さんのお母さんはにこやかに朝食を作ってくださいました。
普通なら、嫁入り前の娘の家に男3人が押し掛け泊まったりするなんて、親としては許しがたいことのはずなのですが、お母さんもお父さんも、妹さんまでが我々を大歓迎してくれました。
どうも、ちょっと感覚が一般人とは違うみたいな(酔っぱらって押し掛けちゃう我々も我々ですが)、不思議な家族でした。なんでもお父さんもお母さんも、もう引退しましたが元校長先生という教育一家。しかし子どもを厳しくしつけるのではなく、かといって放任しているわけでもなく、それぞれを「大人」と認めて同等に付き合っている、といった感じがして、とてもいい家族だなあと思いました。
その一件以来、私はますます切子さんと仲良く、酒を飲みに行ったりカラオケに行ったりと、親交を深めていきました。
彼女の話はとても面白く、特に「テレビ評論」はお金払ってでも聞きたいと思うほどの見事さでした。
「美空ひばりに刑事の役なんか無理よ。だって3頭身しかないんだもん」
「酒井和歌子みたいな気の利かない女が料理番組のアシスタントなんかやれっこないわよ。あんなひらひらした袖の服着ちゃって、料理なんかできないわよ」
など、身ぶり手ぶりを交えていろんな芸能人を切っていきます。一見悪口ばかりみたいですが、そのあと、しっかり「自分落とし」のネタを持っているので、それは楽しい「パフォーマンス」になっているのです。
だから切子さんは男性からも女性からも人気ものでした。仕事はともかく(笑)、宴会には欠かせない人でした。
それだけでなく、切子さんはなかなか細やかな心も持ち合わせていて、会社の女性の誕生日などに、手作りの花のブローチをプレゼントしたり、私にも「バーゲンで見つけたんだけど、似合うと思って」と洋服をさりげなくプレゼントしてくれたりもしました。
しかし、楽しいトークでいつも場を盛り上げていた切子さんのキャラクターが、少しずつ少しずつ変貌していってしまうのでした。
彼女には抱えきれないほどのいろいろな問題が、あとからあとからやって来て、さすがの切子さんもギャハハと笑って過ごすわけにはいかなくなってきたのです。(続く)
通された部屋は、20畳ほどもある、切子さんの「仕事場」でした。
切子さんの家は、その昔下宿屋さんをしていたらしく、広さだけはとても贅沢なのですが、その広いスペースに、アイロンやらコテやらいろんな生地やら本やらが散乱して、まったく足の踏み場がありません。なにも知らない人がこの部屋に入ったら、きっと泥棒がいろいろと物色した後だと思うような、とにかくすごい部屋でした。
「このへんの荷物どけて、布団敷いてね。あっ、あたしはもちろん違う部屋で寝るから。じゃ、おやすみ」
布団は一組しかありませんでした。もっとも、3人分の布団があったとしても、敷くスペースはありませんでしたから、いっしょでした。
無理矢理泊まらせてもらったので、文句も言うことはできないのですが、我々3人はあまりもの衝撃で、すっかり酔いも醒めてしまいました。
「切子さん、女にしておくのもったいないよな」
電気を消して、窮屈きわまりない布団に入ったあと、ひとりがそうつぶやきました。
女にしておくのがもったいないかどうかは別として、気取りとかおすましとか、一般的な女性が持ってあるであろうものとは真逆のふるまいがとても新鮮で、魅力的だと思わせる、いままで知らなかったタイプの女性だなあと思いながら、私は眠りにつきました。
次の朝、夕べの勢いとはうらはらに、すっかり恐縮してしまった我々に、切子さんのお母さんはにこやかに朝食を作ってくださいました。
普通なら、嫁入り前の娘の家に男3人が押し掛け泊まったりするなんて、親としては許しがたいことのはずなのですが、お母さんもお父さんも、妹さんまでが我々を大歓迎してくれました。
どうも、ちょっと感覚が一般人とは違うみたいな(酔っぱらって押し掛けちゃう我々も我々ですが)、不思議な家族でした。なんでもお父さんもお母さんも、もう引退しましたが元校長先生という教育一家。しかし子どもを厳しくしつけるのではなく、かといって放任しているわけでもなく、それぞれを「大人」と認めて同等に付き合っている、といった感じがして、とてもいい家族だなあと思いました。
その一件以来、私はますます切子さんと仲良く、酒を飲みに行ったりカラオケに行ったりと、親交を深めていきました。
彼女の話はとても面白く、特に「テレビ評論」はお金払ってでも聞きたいと思うほどの見事さでした。
「美空ひばりに刑事の役なんか無理よ。だって3頭身しかないんだもん」
「酒井和歌子みたいな気の利かない女が料理番組のアシスタントなんかやれっこないわよ。あんなひらひらした袖の服着ちゃって、料理なんかできないわよ」
など、身ぶり手ぶりを交えていろんな芸能人を切っていきます。一見悪口ばかりみたいですが、そのあと、しっかり「自分落とし」のネタを持っているので、それは楽しい「パフォーマンス」になっているのです。
だから切子さんは男性からも女性からも人気ものでした。仕事はともかく(笑)、宴会には欠かせない人でした。
それだけでなく、切子さんはなかなか細やかな心も持ち合わせていて、会社の女性の誕生日などに、手作りの花のブローチをプレゼントしたり、私にも「バーゲンで見つけたんだけど、似合うと思って」と洋服をさりげなくプレゼントしてくれたりもしました。
しかし、楽しいトークでいつも場を盛り上げていた切子さんのキャラクターが、少しずつ少しずつ変貌していってしまうのでした。
彼女には抱えきれないほどのいろいろな問題が、あとからあとからやって来て、さすがの切子さんもギャハハと笑って過ごすわけにはいかなくなってきたのです。(続く)
by yochy.1962
| 2005-05-01 01:08
| 生活全般